2018.9.09  日曜日 23時

世界から隔絶されたように過ぎてゆく日々。

不思議な時間が流れています。

生まれた時はこの人のおっぱいを吸っていましたが

死ぬ前はこの人の痰を吸っています。

お部屋には独特のにおいが常に漂っています。

おしっこでもなく

痰でもない。

バイオなにおい。

人間のにおい。

人間はにおいだ。と思いました。


ベッドの横に

デジタルフォトアルバムを置きました。

自動的に写真をめくってくれる

便利なアルバムです。

これは3-4年前の誕生日にしずこさんにプレゼントしたのです。

最近の写真もいっぱい撮りましたが
写真もUPするとなると
相当時間かかるので
テキストだけです。


いつもショパンをかけるのですが

ショパンをかけると

しずこさんの手が舞い始めました。

こないだは

しんちゃんと一緒に舞っていたの

映画みたいやったな。

ノクターン第2番 変ホ長調





ここ2日間くらい

夜中ゼロゼロとむせるので

2-3時間置きに吸痰しました。

吸痰すると

すーっと楽になるようです。

できるだけ苦しまないように

送り届けないとね。

ここ2-3日夜勤みたいなかんじでしたが

きょうは静かです。

もしかして死んだ?

と思って見に行くと

小さないびきをかいて寝ていました。

今一回吸痰をしました。

夜中は

2-3回吸痰をします。

吸痰はほんとミルクのにおい

赤ん坊の時はこの人のおっぱい吸って
(粉ミルクだった説あり)

いまわのきわには痰吸って。



しずこさんはほんと

ラッキーな人だ。

彼女はほんとうは現役のままでぽっくりと死にたかったはずだ。

ところが思わぬ余生を生きてしまった。

彼女にとっては満たされないままの余生だった。

現役をリタイヤしてからの6年間は

あがいていた。

いつも。

満たされぬ何かを求めていて

あさましいくらいだった。

それでぼくらや周りの人たちはどんどんと遠ざかり

孤独になっていった。

彼女は自己愛性人格障害っていうのが

そのまま当てはまるひとだった。

こんなはずではない本当のわたしを

現在の自分のギャップに苦しんでいたけれど

ぼくらにどうすることもできなかったし

何度も大喧嘩をして

その度に距離が開いた。

でも、最後

脳卒中になって

死ななかった。

おそらく一晩10時間くらいは倒れていたはずなのに

翌朝、救急車で運ばれて行って

意識不明だったのが

2週間後には目が開き、かすかに喋った。

そうしていまここ。


自宅で静かにその時を待っている。

病院より1000倍1万倍いい。

いろいろな人が訪ねてくれる。

ぼく手を握って髪の毛をなでるのは

普通のことになっていた。

こういうことは元気な時には到底できなかった。

目を合わせてにっこりとほほ笑んであげられる。

元気な時は1秒も目を合わせなかった。

歩くのはいつも2-3m離れて歩いた。

今はずーっと目をみて

いつも、ありがとね。

と声を自然にかけてあげられる。

しずこさんの目は

お祖父ちゃんそっくりの目をしている。


元気なころのしずこさんとは全く別人になってしまったが

こっちの方が断然いい。

アドラーの言う通り

人間は死の一日前でも変われるんだ。

ということを実践してくれた。

 

 

表情もずっとずっとおだやかだ。

元気な時の写真みると  インゴウババアの顔してるので好きじゃない。


いまのしずこさんは本当にいいお顔。

時々はつらそうにもしているけれど。

病院にいた時はいつもつらそうな顔をしていた。

いまは、本当におだやか。

ぼくらも来てくれる人もみんなやさしい。


ありがとうございます。


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看取り日記