2018.8.30  木曜日 午前11時30分

意外に楽勝と思ったものの

夕べは結局2時間ごとに目をさまし、

うまく体位変換できているか?

おしっこはたまっていないか?

などと気になり

2時間ごとに目が覚めた。

 

結局 落ち着かないまま

朝6時に起きて ヨガをするが

なかなか集中できなかった。

そのままバイクを走らせ

家に必要なものを取りに行って

ユキちゃんに大きなものは後で届けてもらうようにお願いして また戻る。

すこし仕事をして、

すこし眠る。


9時過ぎ

ユキちゃんが 物資を運んでくれた。

ちょうどしずこさんも目を覚ました。

目を開いて

辛うじて動く右手が弧を描く。

それを握って、やさしく声をかける。

こんなにやさしくしずこさんに声をかけられるのは

初めてだ。

少なくともここ数十年の間に。

闘争心の激しいひとだったので

いつも対決モードに入ってしまっていた。

今は絶対弱者になってしまったので

もうかつてのしずこさんではない。

だから目を合わせて

おでこをなでて

大丈夫やでな。

すっとおるでな。

と、

なんのてらいもなく

やさしい言葉が自然とでてくる。



最後にこういう時間を持ててとても嬉しい。



近所の人がお見舞いに来てくれた。

その方もお一人で暮らしている。

まだ70代になったばかりと思っていたら

もう80歳だそうだ。

全然そうは見えないくらいお元気だ。

しずこさんも

80歳のときはバリバリ元気だった。



占いの人に言われたの。

80を過ぎたらかわいい、おばあちゃんになるの。


しかし占いの予言は外れ、

かわいいどころか獰猛なばあちゃんだったけれど

ぎり89歳で かわいいおばあちゃんになった。

9月12日がくれば90歳になる。

90歳の誕生日を迎えられるのか?


訪問看護師さんから電話。

今日の訪問は夕方になるそう。


おしっこがたまってきたので

処理する。


おしっこは尿道から管を通して

ベッドの横におしっこバッグをぶら下げて

そこに尿が溜まる仕組みになっている 。

昨日見たら500㏄しか溜まっていなかったので

朝までそのままにしておいた。

11時に見たら1000㏄溜まっていた。

訪問看護師さんに言ったら

毎日定時に尿を処理してください。

というので

朝11時に尿を取ることにした。


1リットルのおしっこ。

1リットルの涙。という映画があったけど

実際の現場は

1リットルのおしっこだ。


と思った。


先日教えられたとおりに

おしっこバッグの底の部分の

ストッパーを外し

バケツに1リットルのおしっこを

流し込んだ。

うーーーーーーーん

スメーーーーーーール

息を止めて トイレに流し

風呂場でバケツを洗った。

心拍数があがった。


さて、次は吸痰。

しずこさんは目を覚ましていて

手は虚空をさ迷っていたが

ちょっとまってねー。

はーい、痰をとりますので

口を開けてねー。

おくちあーん。

はいとりますよー。

歯医者さんでやるバキュームの要領だ。

これはわりと抵抗なく出来る。

看護師さんは鼻の穴から管いれていたけど

あれは無理。(笑)


おむつは・・・夕方の訪問看護師さんにまかせます。



介護や看護の人は

こういうのを毎日やっているんだ。

 

ほっとするもつかの間

T病院の看護師と院長がやってきて

脈と血流をチェックして

あわただしく帰って行った。


院長は病院で診察もして

往診もして

ものすごく忙しそうだ。

ありがとうございます。


そうしてやっと今、

なんだか時間の感覚も

曜日の感覚もない。

カレンダーもないので

なんだかわからない。

ユキちゃんに100均で来年のカレンダーを

買ってきてもらい

曜日の並びの同じ月を

ちぎって壁に張った。

さて、お昼にしよう。

 

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午後11時

なんとなくなんとなく時間がすぎる。

落ち付ているようで落ち着かない。

ケアマネさんが様子を見に来てくれる。

ケアマネさんは仕事じゃなくて愛で会いに来てくれているのがよくわかる。

ほんとうにいいケアマネさんに巡り合えてよかった。


夕方、訪問看護の看護師さん3人が来てくれた。

点滴をつないでくれる。

点滴は水分補給のため一日に500㏄を入れてくれる。

やってもやらなくても同じようなもののように 思えるけど

干からびるのを防止するのかな?(笑)

オムツも交換してくれた。

蓐瘡とか大丈夫ですか?

と、聞いたら

大丈夫ですよ。

何かあったらどんなことでも、いつでも電話してくださいね。

明るくおっしゃってくれる。


看護師さんたちもケアマネさんも

ぼくにとっては天使のように思える。

ありがとうございます。



ユキちゃんと次女もやってきた。

人が来てくれるとほっとする。


みんな帰ってしまった午後6時。

しずこさんの手が泳いているのをみて

ベッドの横にすわり手を握る。

目を開いて僕を見る。

元気な時はその視線の圧が強すぎて

1秒も目を合わせられなかった。

今は手を握り、じっと目を合わせる。

ずっと目を合わせる。

何か喋っているが何を言っているのかわからない。

それでもうん、うん。うなずく。

ちょっと待っていて。ビール持ってくる。

冷蔵庫に行ってビール持ってきて

ベッドの横に座り

ビール飲みながら

しずこさんとの時を過ごす。


しずこさんはずっと何か喋っていた。

何かわからないけれど

ぼくは、うん、うんとうなずいて

しずこさんの話を聞いていた。

すごくしずこな時間(笑)

やがて彼女はまた眠りの深い淵に沈んで行った。


ほんとうにすごくいい時間。

静かで落ち着いたいい時間。

キラキラの輝きもなく、静謐(せいひつ)で

純度の高い時間。

この人とこういう時間をもったのは

おそらく55年ぶりだろう。

ぼくの自我が目覚める前と

彼女の自我が滅びる前。

時間は循環する。

さきほど、ぜいぜいとあえぐので

痰吸引をした。

痰吸引はかなり慣れた。

看取り日記